祖母から受け継いだ“直す”という感覚
山口の信号もない田舎町で育った僕は、共働きの両親に代わって、よく祖母と過ごしていました。
戦争経験者であり、戦後の厳しい時代も生き抜いた彼女は、豪快で情に厚く、そして裁縫の得意な人でもありました。
印象的だったのは、すり減って布そのものが無くなった靴下の修理。
親指の先くらいぽっかり空いた穴を、当て布もなしに針と糸だけで塞いでしまう。
まるで“糸だけで布を編み直す”ようなその姿に、子ども心に強く驚かされたのを覚えています。
気づけば、針と布に引き寄せられていた
母親は裁縫をほとんどしなかったのに、なぜか僕は小学生のときにミシンに出会ってから、裁縫が好きになりました。
「作る」というより「直す」ことに惹かれていたのかもしれません。
冬になると、ストーブの前で相撲を見ながら針仕事をしていた祖母の姿。
あの空気の中で、“壊れたものを見捨てず、もう一度活かす”という価値観が、自然と自分の中に根付いた気がします。
古着屋から、IT業界、そしてふたたび
20代で古着屋に勤め始めた頃には、すでに自分用のミシンを手に入れて、裾上げやリメイクを楽しむようになっていました。
その後、一度はIT業界に転職し、デザインやWeb制作の仕事を10年以上しています。
でも、やっぱり“古着の面白さ”が忘れられず、個人でオンライン古着店を立ち上げました。
自分で仕入れのために倉庫に行ったりするなかで改めて感じたのが、「古着の中にも行き場を失ったものがたくさんある」という現実です。
売り物にはならないけど、どうしても捨てきれない。そんな服たちに、もう一度役割を与えられないか。
そこから、リメイクやアップサイクル中心の店づくりへと転身していきました。
名前に込めた意味
ブランド名「DEFRAG」は、コンピューター用語の “デフラグメンテーション(defragmentation)” に由来しています。
バラバラになったデータを最適化して再配置し、もう一度つながりのある形にする処理。
もともとIT業界で制作やデザインの仕事をしていた僕にとって、この“断片の再構築”という考え方はとても身近で、強く共感できるものでした。
古着 × 再構築というアプローチ
古着を扱う中で出てくる、傷や汚れで販売できない服。
そのままでは使えないけれど、断片として見れば魅力的な部分がたくさんある──。
そうした素材たちをほどき、組み直し、まったく新しいものに変えていく。
そのプロセスは、まさに“デフラグ”そのもの。
バラバラだった布や記憶を、もう一度つなぎ直して価値ある形にしていく作業です。
僕の役割と“サンプリング”感覚
このブランドでは、僕がデザイン面を担当しています。
とはいえゼロから生み出すというよりも、すでにそこにある布や柄の“癖”や“名残”を見極めて、どう組み合わせれば生きるのかを考える仕事です。
その感覚は、僕が好きなHIPHOPの“サンプリング”にも似ています。
既存の素材を解体し、拾い上げ、再構築して新しい価値を生み出す。
音楽でも服でも、限られた材料からどれだけ自由に遊べるか。そんな楽しさが、僕の原動力です。
職人の手が、命を吹き込む
そして、このプロジェクトは僕ひとりでは実現できません。
アイデアや構成を考えるのは僕ですが、最終的に形にしてくれるのは国内の縫製職人の方々です。
大量生産にはないラフさや温もり。
一点ずつ異なる布の個性を見極めながら、パーツごとに丁寧に仕立てていく。
それはまるで、素材との会話を重ねるような仕事です。
作り手の技術と感覚がひとつずつに宿ることで、DEFRAGのアイテムは、単なるリメイクではなく「人の手を感じるプロダクト」へと昇華しています。
そして、今日もまた一着を。
DEFRAGは、ただリメイクをするためのブランドではありません。
一度は行き場を失った服を、もう一度誰かの生活に送り出すための、小さな手段です。
それは、祖母の背中から受け取った“直す文化”の延長であり、IT業界で学んだ“再構築の思想”の具現化でもあり、そして、職人たちの手仕事と僕の感覚が出会って生まれる、共作のようなものでもあります。
誰かの手に再び届く日を願って。
素材の持ち味を生かせるかたちを、これからも探っていきます。